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涙の漢方薬

最近、「涙が止まらない」という訴えの人が目立ちます。激しい精神的興奮(気逆)に伴う水逆(身体の中の水の逆流)により涙腺から涙が零れ落ちると考えられます。この様な方に当院では甘麦大棗湯(かんばくだいそうとう)という漢方薬が第一選択です。症状が強い場合は、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅっかんとう)というを薬を併せて処方する場合もあります(苓桂甘棗湯:りょうけいかんそうとう)。甘麦大棗湯は今から約1300年前(日本の弥生時代頃)の頃の中国の書物「金匱要略」に既に書かれている薬です。

 この薬の面白いのは甘草(甘味料)と小麦、大棗(ナツメ)の3種の食品で出来ていて、薬の名前がそれを表しています。現代の様に沢山の精神安定剤がある時代とは違い、安定剤など何もない時代に食品を組み合わせて精神安定を図った古人の知恵に感服します。この薬が21世紀の現在まで生き残り、ストレス社会を生きる現代人にとって「なくてはならない薬」になっています。特に妊婦や授乳中の方の精神不安定には副作用の少なさから有用な薬です。これからも積極的に使って行きたい薬の一つです。