桂枝加芍薬湯

 最近、診察をしていてよく思うことは、初診で来られる方の殆どは睡眠と食欲・便通の乱れがあることです。後者の二つは消化器系の自律神経の乱れと考えられます。便通は便秘でも下痢でもなく普通の便が出ることが快便で望ましいですが、そうは行かない人が多いです。

 便秘の時に下痢止めを使うと下痢になってしまうことがあり、下痢の時にイリボーなどの下痢止めを使うと便秘になってしまうことがあり悩ましい所です。そういう時に便通を中庸に持って行く薬が「桂枝加芍薬湯」です。風邪薬の「桂枝湯」の中の芍薬を増量した薬ですが、それだけで下痢・腹痛に効くIBSの漢方薬になります。この薬は腸だけではなく精神安定にも効くことが経験的に分かっており、西洋薬にはない脳腸相関の安定化に効く薬であると考えています。約2千年前からあるこの薬が現代まで生き残り、なおかつストレス社会の今、益々輝いているのは誠に不思議なことです。

 私は「治療というものは、いきなり精神症状の本丸根治を目指すのではなく、まず脇の症状から徐々に治していくものだ」と思っており、まず睡眠・食欲・便通の安定から治療をスタートする様にしています。その点からも、この薬はとても大事な薬であると考えています。