昔から我が国でも常用語となっている「腹が立つ」などの言葉でもわかる様に、腹は「肚」とも書かれ精神状態と消化器系との密接な関係は知られて来ました。英語でも「ガッツ」という内臓、はらわたを示す言葉は、精神的パワーを現す「肝っ玉・根性」という意味にも使われるようになり、ガッツポーズでも明らかな様に日本語にも取り込まれています。...
漢方では奔豚気病(ほんとんきびょう)という面白い名前の病名があります。発作的に下腹部から胸や咽喉に衝き上げてくる激しい動悸が特徴的で、胸腹部を子豚が走り回る様な感覚があることから、昔からこのように呼ばれています。「奔」には古来「憤」と同じ用い方もあり、奔豚には「憤る豚」という意味もあるそうで「憤り、走る子豚」という意味になるでしょうか。 奔豚気病は今風に言えば、ストレス社会の現代病の典型である「パニック障害」です。パニック障害は細身で上品で見た目が綺麗な人が多いという印象があります。奔豚気のイメージで見ると、外見的にはおしとやかな女性も内面ではストレスを溜め込み、憤る子豚が身体の中を走りまわっていると思うと内と外とのアンバランスの表現が昔の人はユニークです。 漢方では昂ぶった気を下げる薬である苓桂甘棗湯(エキス剤では苓桂朮甘湯と甘麦大棗湯の合方)などが効くと言われています。西洋医学ではパニック障害の薬物療法はまずSSRIという抗うつ剤の服用とベンゾジアゼピン系安定剤の頓服使用ですが、これらの薬は副作用も多く最初から使いにくいです。まず最初は、副作用が少なくのみやすい漢方薬から試して行くのが当院のやり方です。 甘麦大棗湯の3成分は甘味料としても使われる甘草(カンゾウ)、小麦(ショウバク)、大きなナツメの大棗(タイソウ)と全て食品であり、それらのブレンドが精神安定に効くことを見つけた昔の人の知恵には驚きます。